「エスプレッソ」という名前は知っていても、実際どんな飲み物か、ドリップコーヒーと何が違うのかを説明できる人は意外と少ないかもしれません。カフェのメニューで見かけても「濃くて量が少ないコーヒー」というイメージだけで通り過ぎてしまいがちです。
この連載では、pluubi roasteryが日々向き合っているコーヒーの中でも特に奥が深い「エスプレッソ」の世界を、3回に分けて掘り下げていきます。第1話は、その正体と、日本であまり馴染みがなかった理由についてです。
エスプレッソとドリップ、何が違うのか
エスプレッソとは、細かく挽いたコーヒー豆に高い圧力(約9気圧)をかけたお湯を、20〜30秒という短時間で一気に押し通して抽出するコーヒーです。デミタスカップに注がれる量はわずか30ccほどですが、使う豆の量は通常のドリップコーヒー1杯分とほぼ同じ。短時間で凝縮して抽出するぶん、味も香りも数倍濃厚に仕上がるのが特徴です。カフェラテやカプチーノ、カフェモカといった定番メニューも、実はこのエスプレッソがベースになっています。
家庭で豆から抽出する場合、ドリップは「お湯の重力」だけで抽出しますが、エスプレッソは「機械の圧力」で抽出する、と考えると違いがイメージしやすいかもしれません。

なぜ日本ではエスプレッソがあまり根付かなかったのか
この傾向は最近始まったことではなく、ルーツは明治時代にまでさかのぼります。
日本にコーヒーが伝わった明治時代初期には専用の抽出器具がなく、細かく挽いた豆を鍋で煮出す飲み方が主流でした。大正から昭和初期にかけて喫茶店文化が花開くと、店主が客の前でサイフォンやネルドリップを使い一杯ずつ丁寧に淹れる、日本ならではのスタイルが確立します。豆の個性をじっくり引き出す“手仕事”としてコーヒーを淹れることに価値が置かれたため、圧力で一気に抽出するエスプレッソとは、そもそも相性があまり良くなかったのです。
国産のエスプレッソマシンが登場したのは1956年(昭和31年)ごろですが、当時は非常に高価な設備で、喫茶店にとって導入コストが大きなハードルでした。1980年代には「泡立てたコーヒー」がエスプレッソ風メニューとして登場しますが、その多くは本格的なマシンを使わない代用品だったと言われています。
本場に近いエスプレッソが広まり始めたのは1990年代以降ですが、実はイタリア本場のスタイルよりも、アメリカ経由で広まった「シアトル系」スタイルの影響が強く、ミルクをたっぷり加えたラテなどの形で浸透しました。そのためエスプレッソそのものを単体で味わう文化としては根付きにくかった側面があります。さらに近年は、豆本来の個性を楽しむ「浅煎り・シングルオリジン」の人気が高まり、これは深煎り豆を濃厚に仕上げるイタリア式エスプレッソとは方向性が正反対でした。
手淹れ文化・設備投資のハードル・シアトル系の影響・浅煎りブームという複数の要因が積み重なり、エスプレッソは「知ってはいるけれど、あまり飲む機会がない」コーヒーとして日本に定着していったというわけです。

エスプレッソならではの美味しさ
エスプレッソの魅力は、その凝縮感にあります。短時間で一気に抽出することで、豆が持つ香り・コク・甘み・酸味・苦みがぎゅっと詰まった状態で味わえます。表面にできるきめ細かい泡「クレマ」もエスプレッソならではの見どころですが、これについては次回、第2話で詳しく掘り下げます。
一見苦味が強そうに感じますが、実際に飲むとしっかりした甘みやまろやかさも感じられ、バランスの取れた奥深い味わいが楽しめます。少量でもしっかり満足感があるのは、この濃縮された美味しさゆえです。
家庭用の全自動マシンが普及し、豆を入れてボタンを押すだけで抽出からカプチーノ作りまでこなしてくれる手軽さから、「エスプレッソはお店やプロの道具」というイメージが変わりつつあります。自家焙煎の豆でも、深煎り寄りに仕上げたものはエスプレッソ的な抽出との相性が良く、pluubi roasteryでも焙煎度合いのご相談をいただくことがあります。
次回は、エスプレッソの“顔”とも言える「クレマ」について、そのメリット・デメリットと、最近囁かれる“クレマ不要論”を整理していきます。

(本記事はnoteに掲載した記事を、当ブログ向けに再構成・加筆したものです)

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